インプラントの固定方法「スクリュー固定」とは?セメント固定との違いも解説
インプラントは、「インプラント体(人工歯根)」、「上部構造(人工歯)」、「アバットメント(インプラント体と上部構造を連結する部分)」の3部構造で成り立っています。
上部構造を装着する際には、スクリューと呼ばれるネジでアバットメントに固定するのが主流になってきている今ですが、固定の方法は「スクリュー固定」と「セメント固定」の2種類があります。
本記事では、インプラントの固定方法について詳しく解説します。さらに2種類ある固定方法のそれぞれのメリット・デメリットも併せてご紹介。自分に最適な方法を選択し、納得のいくインプラント治療を受けられるよう、ぜひ参考にしてみてください。
この記事でわかること
- インプラントの固定方法は「スクリュー固定」と「セメント固定」の2つがある
- スクリュー固定とは、インプラントと人工歯をネジで固定する方法
- セメント固定とは、インプラントのアバットメントに直接、歯科用のセメントを使用して人工歯を接着する方法
- スクリュー固定のメリットは、①人工歯(上部構造)を取り外せる ②メンテナンス・クリーニングしやすい ③インプラント体へのダメージを抑えられる
- セメント固定のメリットは、①審美性に優れている ②ネジがゆるむ心配がない ③セメントによっては上部構造を壊さず取り外しができる
インプラントの固定方法は2種類
前述した通り、インプラントの固定方法には「スクリュー固定」と「セメント固定」の2種類が存在し、それぞれ特徴が異なります。
インプラント治療における重要な選択であり、患者の個々の状況や医師の方針によって使い分けられます。まずはそれぞれの特徴を知り、理解を深めていきましょう。
「スクリュー固定」とは
スクリュー固定とは、インプラントと人工歯をネジで固定することを指します。まず顎の骨に埋め込まれたインプラント体にアバットメントを接続し、その上から上部構造(人工歯)をネジで固定する方法です。
上部構造にはスクリューを通すためのアクセスホール(ネジ穴)が設けられ、最終的には歯科用プラスチック材料で埋める処置を行います。
スクリュー固定は、ネジを緩めて部分的に取り外せるのが特徴の一つ。取り外し可能なことからクリーニングやインプラントの調整が比較的容易に行えるため、多くの歯科医院で採用されています。
また、次にご紹介するセメント固定より選ばれる方が多いのも、このスクリュー固定です。
「セメント固定(セメント合着)」とは
セメント固定は、審美性を求める場合に選ばれることが多い方法で、インプラントのアバットメントに直接、歯科用のセメントを使用して人工歯を接着します。スクリュー固定のようなネジ穴が不要なため、より自然な歯に近い外見を実現できるのが特徴です。
ただし、一度接着すると人工歯を取り外すことが極めて困難になるため、修理やメンテナンスが必要な場合には上部構造を破損せざるを得ないことも理解しておきましょう。
また、セメント残留が原因で炎症が起こるリスクもあります。このメリットとデメリットを十分に理解した上で、最適な方法を選択することが大切です。
インプラントの「スクリュー固定」のメリット
インプラントの固定方法の一つとして注目されるスクリュー固定には、さまざまなメリットがあります。
メリットを1つずつ詳しく見ていきましょう。
人工歯(上部構造)を取り外せる
スクリュー固定の最大の特徴は、人工歯である上部構造を簡単に取り外せることです。人工歯の破損や不具合が生じた際に非常に役立ちます。
たとえば、歯の色を変更する必要がある場合や欠けた部分を修正する場合、スクリュー固定であれば部分的に人工歯を交換することができ、セメント固定に比べて迅速かつ簡単に対応できるのです。
また、インプラントに問題が生じた場合でも、上部構造を壊さずに取り外し、その後再利用することが可能。この柔軟性はトラブル対応のスピードを大幅に高め、インプラントを長持ちさせるのに最適です。
メンテナンス・クリーニングしやすい
スクリュー固定のインプラントは、メンテナンスやクリーニングがしやすいという大きな利点があります。
治療後に発生しやすいインプラント周囲炎に対して素早く対応できるほか、定期的な歯科医院でのメンテナンス時にも、上部構造を取り外して徹底的に清掃が行えるのがメリットです。
これにより、細部までのクリーニングが可能となり、インプラント周囲炎の原因となる歯周病菌の増殖を防ぐことができます。
インプラントは長期間にわたって健全な状態を保つことが求められるため、このように専門的な器具を使用した洗浄は、インプラントの健康維持において非常に重要です。
特に重症化すると深刻な影響を及ぼすインプラント周囲炎に対する予防策としても、スクリュー固定は効果的な方法と言えるでしょう。
インプラント体へのダメージを抑えられる
インプラントには噛んだ時の衝撃を和らげるクッションの役割となる歯根膜が存在しません。そのため、噛む力が直接的にインプラント体に伝わりますが、スクリューがわずかに緩むことで負担が軽減され、インプラント体へのダメージを抑えることができます。
また、日頃の噛み癖や食いしばり、歯ぎしりなどの影響でスクリューが緩むこともありますが、定期的な歯科医院でのメンテナンスでスクリューを締め直すことが可能です。そのため、長期にわたって安定した状態を保つことができるようになります。
インプラントの「スクリュー固定」のデメリット・注意点
インプラントのスクリュー固定は、メンテナンスが容易であることやインプラント周囲炎のリスク軽減などのメリットがある一方で、いくつかデメリットや注意点も存在します。
以下では、代表的なデメリットについてご紹介します。
穴をふさぐレジンが経年劣化する
スクリュー固定のインプラントの一つの問題として、ネジ穴を塞ぐレジンの経年劣化があります。このレジンはプラスチック素材であるコンポジットレジンが使用されており、時間が経過するにつれて変色しやすい性質があるのです。
変色は見た目に影響を与えますし、レジンは柔らかい素材であることから使用するうちにすり減って噛み合わせに影響を与える可能性もあります。
ただし、レジンは歯科医院で簡単に交換可能であるため、定期的なメンテナンスで劣化を未然に防ぐことができるでしょう。
時間の経過とともにネジが緩む
インプラントのスクリュー固定では、人工歯とアバットメントを連結するネジが、時間の経過や過剰な負荷が継続的にかかることにより緩んでしまうことがあります。ネジが緩むと、インプラントがぐらつき、噛み合わせに不具合が起きる可能性もあるのです。
なお、ネジを締め直す処置は歯科医院で簡単にすることがあるため、ネジの緩みが生じた際には速やかに歯科医院を訪れ、適切な処置を受けるようにしましょう。
緩みを放置すると細菌感染しやすい
スクリューの緩みを放置したままにすると、緩みによって生まれた隙間に食べかすや細菌が入り込み、細菌感染を引き起こしやすくなります。
さらに、細菌感染によってインプラント周囲の骨が減少し、インプラント自体の動揺や脱落に繋がる可能性も考えられるため注意が必要です。
スクリューの緩みは自分では気付くことが難しい場合もあるため、歯科医院での定期的なメンテナンスでチェックしてもらいましょう。
インプラントの「セメント固定」のメリット
スクリュー固定が一般的である一方で、セメント固定にも特有のメリットがあります。代表的なメリットとして、以下の3つをご紹介していきます。
審美性に優れている
スクリュー固定の場合、ネジを入れるための穴が生じるため、その穴を埋める必要があります。この穴が、特に前歯においては見た目に影響を及ぼす可能性があります。
一方、セメント固定は人工歯に穴が開いていないため、より自然な見た目を実現します。これは、特に笑った時や話している時に口元の見た目を気にする患者様にとって、大きなメリットになるでしょう。
ネジがゆるむ心配がない
スクリュー固定の場合、時間が経つとネジが緩むことがあり、それによってインプラント全体の安定性が損なわれる可能性があります。
しかし、セメント固定ではネジを使用することがないため、このような問題が避けられます。
セメントによっては上部構造を壊さず取り外しができる
本来、セメント固定で装着した上部構造は、壊して取り外すしか方法がありません。しかし、仮止め用のセメントであれば壊さずに取り外せる場合があります。
ただし、仮止めということから、本来使用するセメントと比べて接着の強さが異なるため、外れやすいことを理解しておきましょう。
なお、一般的に仮止め用のセメントは、最終的に上部構造を装着する前に、噛み合わせに違和感がないか、審美性や機能性に不具合がないかなどを確かめるための期間において、一時的に使用されることがほとんどです。
インプラントの「セメント固定」のデメリット・注意点
インプラントのセメント固定は審美性や安定性に優れている一方で、いくつかのデメリットや注意すべき点が存在します。
ここからは、セメント固定のデメリットや注意点について見ていきましょう。
基本的に人工歯は取り外せない
セメント固定の方法では、一度人工歯がインプラントに固定されると、通常の状況では簡単に取り外すことができません。このため、例えばインプラント周囲炎が発生した場合でも、人工歯を取り外してクリーニングを施すことが難しくなります。
また、万が一インプラント体自体に問題が生じた際にも、上部構造を壊して取り外すしか方法がないため、改めてインプラントを行う場合は作り直しが必要になります。近年では仮止めで取り外し可能なセメントも登場していますが、裏を返せば普段も「外れやすい」ということを知っておきましょう。
メンテナンスが難しく、費用も高い
何度もお伝えしているように、セメントで固定された人工歯を取り外すことは難しいものです。そのため、インプラント周囲にトラブルが発生したときには人工歯を壊して除去しなければならず、作り直しには高額な費用がかかることがあります。
セメント固定ではセルフケアやプロのメンテナンスが特に重要であり、日常的なケアが怠られると、さらに高いメンテナンス費用がかかるリスクがあることを理解しておく必要があるでしょう。
セメントがインプラント周囲炎や歯周病の引き金になることも
セメント固定では、使用されたセメントの一部がインプラント周囲に残ることにより、インプラント周囲炎や歯周病が引き起こされることがあります。進行すると、インプラントと結合している顎の骨が溶け、最悪の場合インプラントが動揺、脱落する可能性もあるのです。
また、セメント固定では人工歯を取り外すことができないため、クリーニングを十分に行えず、感染リスクがさらに高まることも考えられます。そのため、定期的に歯科医院でのメンテナンスに通うことと自宅での徹底したセルフケアを心がけましょう。
インプラント体に負荷がかかりやすい
スクリュー固定ではネジが緩むことで噛んだ時の衝撃を軽減しますが、セメント固定ではこのような作用はありません。つまり、インプラント体が噛む力や他の衝撃を直接受けることとなります。
この直接的な負荷は、インプラントの破損や緩みに繋がる可能性があり、長期にわたる耐久性に影響を与えるかもしれません。セメント固定を選ぶにあたっては、インプラント体に負荷がかかりやすいという点を慎重に考慮する必要があります。
「インプラント スクリュー」に関するよくある質問
インプラントのスクリューについてよくある質問をまとめました。
スクリューはインプラントを固定する重要な役割を果たす部分です。自分に合った固定方法を知るためにも参考にし、理解を深めたうえで治療を受けるようにしましょう。
インプラントのスクリューとは何ですか?
インプラントは「インプラント体(人工歯根)」、「上部構造(人工歯)」、「アバットメント(インプラント体と上部構造を連結する部分)」の3部構造で成り立っています。スクリューは3つに分かれた部品をそれぞれ連結し、固定するためのネジのことを指します。
スクリューに緩みがあったらどうすればいいですか?
スクリューは簡単に締め直しを行うことが可能なため、緩みがある場合はすぐに歯科医院で診てもらいましょう。
スクリューは日頃の噛み癖や歯ぎしり、時間の経過によって少しずつ緩みが生じます。緩みを放置してしまうと、噛み合わせに不具合が起きたり、細菌感染を発症したりするリスクがあるため、歯科医院での定期的なメンテナンスでチェックしてもらうことが大切です。
インプラントのスクリューが折れたり外れたりしたら直せますか?
スクリューが折れたり、外れたりした場合は新しいものに交換することで対処することができます。
しかし、インプラントの内部で折れたり外れたりして取り出すことが難しい場合には、インプラント自体を撤去しなければなりません。その場合は、インプラントの再手術が必要となります。
【比較まとめ】スクリュー固定とセメント固定の違い
スクリュー固定は、ネジを使用してアバットメントと上部構造を接続する方法であり、人工歯の取り外しが可能で、再調整やメンテナンスのしやすさがメリットです。
一方、セメント固定は、接着剤を用いて固定を行うため、安定性に優れ、さらには自然な見た目を実現することが可能です。
しかし、それぞれの方法にもデメリットが存在し、スクリュー固定は審美面で限界があることやネジが緩むことがあり、セメント固定は一度固定した後に取り外すことが難しく、不具合が起きたときには人工歯を壊さなければなりません。
したがって、どちらの方法が適しているかは個々の状況や要望によって異なるため、歯科医師と相談のうえ、自分の納得のいく方法を選ぶことが大切です。
どちらの固定方法が適しているかは歯科医師に相談を
歯科インプラントにおいて、「スクリュー固定」と「セメント固定」の2種類の固定方法がありますが、それぞれの方法にはメリット・デメリットがあります。
どちらが最適かを判断する際には、審美性や噛み合わせなどを考慮し、歯科医師の専門的な診断をもとに決めましょう。
また、固定方法によって手術の回数や治療期間、さらにはメンテナンスの方法も変わってくるため、自分にとってベストな選択をするために、疑問点や不安があれば歯科医師にしっかり相談しましょう。
インプラントに関するご相談は「高田歯科クリニック」へ
今回の記事では、インプラントの固定方法であるスクリュー固定とセメント固定についてお伝えしました。それぞれにメリット・デメリットがあるため、どちらも考慮したうえで、自分の要望や口腔内の状況に応じた選択が必要となります。
高田歯科クリニック(杉並区荻窪)では、患者様の要望をお聞きし、どの方法がその方にとって最適かを判断します。インプラントを快適に使用し、長持ちさせるためのご提案をさせていただくため、インプラント治療についてご不明な点やご質問があれば、お気軽に当院へお問い合わせください。
カテゴリー:インプラント&歯科ブログ 投稿日:2025年2月4日