高齢者のインプラントには問題がある?対処方法とメリットと合わせて解説【ご本人・ご家族・介護者向け】

どんな方でも、いつまでもしっかり噛める歯で食事を楽しみたい、健康を保ちたいとお考えでしょう。年齢を重ねてそう感じている方々にとって、インプラントは有力な選択肢ではないでしょうか。しかし問題はないのか不安になることがあるかもしれません。
この記事では、高齢者のインプラントには問題がないのかどうか、考えられるリスクに対処する方法とメリットも合わせて解説します。インプラントを検討中のご高齢者の方はもちろん、そのご家族や介護者の方々も判断の参考にお役立てください。
- 高齢になってからのインプラント治療の問題は、手術リスク、骨への結合不足、感染・術後トラブル、身体的・精神的な負担、セルフケア・通院継続の困難、基礎疾患による合併症リスク、インプラント周囲炎の進行速度
- 過去に受けたインプラント治療が問題になるケースは、インプラント周囲炎の慢性化・重症化、上部構造の経年劣化と修理・交換の困難、MRI・骨粗しょう症治療薬との干渉、顎骨や歯ぐきの変化に対応困難、介護状態時のメンテナンス困難、寝たきり時の窒息・誤嚥リスク
- 高齢になったときのインプラントのメリットは、よい全身健康・栄養状態の維持、見た目の老化の抑制、社会参加の促進と認知症予防、不快感・痛みからの解放、天然歯の保護、誤嚥リスク低減
- 介護する人にとってのメリットは、食事介助の負担軽減、入れ歯の管理・紛失トラブルからの解放、誤嚥性肺炎の予防、スムーズなコミュニケーション、介護関係の向上、介護の重篤化・長期化の防止
- インプラントがほかの治療法より優れている点は、入れ歯との比較では噛む力や長期的な健康維持、ブリッジとの比較では周囲の健康な歯を守る力
高齢になってからインプラント治療を受ける際の問題
ここでは高齢者のインプラント問題を、高齢になってから治療を受ける際の問題と過去のインプラント治療が高齢になってから問題になる点とに分けて解説します。まず、高齢になってからインプラント治療を受ける際に問題となる点について考えてみましょう。
関連記事:インプラントで老後が悲惨に?老後のメリット・デメリットを解説
全身疾患や服薬による手術リスクが高まる
1つめの問題として、全身疾患や服薬による手術リスクが高まる点が挙げられます。高齢者は糖尿病・高血圧・心疾患などの持病を抱えているケースが多く、疾患やその治療のための服薬が問題となることがあります。
全身疾患の例は、糖尿病・高血圧・骨粗しょう症・心疾患などです。服薬で問題となる薬としては、抗凝固薬・ビスフォスフォネート製剤などが挙げられます。
これらの全身疾患や服薬により、外科手術であるインプラント治療のリスクが高まります。具体的には、出血・感染・骨結合不全などにつながる可能性です。特に血流や免疫に関わる疾患は、術後の回復にも影響します。
骨量・骨質の低下により結合がうまくいかない
次の問題は、骨量・骨質の低下により結合がうまくいかなくなるリスクがあることです。インプラントは骨と結合することで安定します。しかし顎骨が少なかったり骨密度が低下したりすると、インプラントと骨がうまく結合しない「骨結合不全」が起こりやすくなります。
骨の量や質が低下する原因としては、加齢、女性の場合は閉経、欠損した状態の長期放置などが挙げられます。
骨量・骨質が低下している場合、インプラント治療には骨造成が必要になるケースがあります。骨造成を行うと、治療期間が長くなるほか費用も多くかかり、時間的・金銭的な負担が重くなります。
免疫力や治癒力の低下による感染・術後トラブルがありうる
さらに、免疫力や治癒力の低下による感染・術後トラブルがありうることも問題です。
高齢者は若年層に比べると免疫機能が衰えて治癒力が低い傾向があります。そのため、インプラント周囲炎など術後の感染症にかかりやすくなったり重症化しやすくなったりしがちです。さらには回復にも時間がかかってしまいます。
また糖尿病や心疾患などの基礎疾患がある場合は、感染リスクがさらに高まる点にも注意が必要です。術前の全身状態を確認すること、術後の適切な口腔ケア・定期的な経過観察を徹底することが求められます。
外科手術による身体的・精神的な負担がある
そのほか、外科手術による身体的・精神的な負担がある点も問題だと言えます。
高齢者の場合、長時間口を開けていることが難しくなります。さらに口腔外科手術に耐える体力・心肺機能が低下していることも少なくありません。そのため、術中の血圧変動や迷走神経反射、術後の疲弊が起こりやすいと言えます。また長時間の開口や術後の出血・腫れが、全身の衰弱(フレイル)のきっかけになる可能性もあります。
認知機能が低くなるとセルフケア・通院継続が難しくなる
認知症などにより認知機能が低くなると、セルフケアや通院継続が難しくなる点も大きな問題となります。
治療後に認知症の発症や進行があった場合、自力では正しい口腔ケアができなくなる、定期的なメンテナンス通院が継続できなくなるといったリスクがあります。周囲がサポートする方法もありますが、その場合もやはり口内の衛生状態を清潔に保ちづらくなる可能性は否定できません。
基礎疾患による合併症リスクがある
また、基礎疾患による合併症リスクがあります。
高齢者の場合、糖尿病、高血圧、心不全、呼吸器疾患など基礎疾患があるケースが少なくありません。これらの基礎疾患が合併症につながる可能性があります。
具体的には、糖尿病による傷の治りの遅れ、高血圧による術中血圧上昇、骨粗鬆症薬(BP製剤)服用による顎骨壊死のリスクなどが起こるケースがあります。
インプラント周囲炎の進行速度が速まる
さらに高齢者の場合、インプラント周囲炎になると進行速度が高まる可能性があります。
高齢者は免疫力が低下していることが多く、若年層よりもインプラント周囲の細菌感染が急速に悪化しやすいと言えます。さらに口内の自浄作用を担う唾液の分泌も低下するため、細菌が繁殖しやすくなります。また骨粗しょう症などで顎骨の骨密度が下がっていることもリスクを高める要因です。
こういった状況が揃うと、インプラント周囲炎によって生じる骨吸収のスピードが速く、かつ深刻になりやすくなります。
過去に受けたインプラント治療により、高齢になってから生まれる問題
高齢になってから、過去に受けたインプラント治療が問題になるリスクもあります。高齢になってから治療を受ける場合と一部重なりますが、どのような問題がありうるか見ていきましょう。
関連記事:インプラントは何歳から何歳まで?年齢制限や高齢者における問題・リスク
インプラント周囲炎が慢性化・重症化する可能性がある
まず、過去に入れたインプラントの場合もインプラント周囲炎が慢性化・重症化する可能性があります。
若いころにはインプラントや口内環境が安定していても、年齢が上がり免疫低下、唾液分泌減少、口腔ケア能力の低下が重なると、周囲炎を起こしやすくなります。さらに進行のスピードも若いころより速くなるため、重症化する可能性もあります。
上部構造(被せ物)の経年劣化と修理・交換が難しくなる
さらに年齢というよりは装着期間の問題ですが、経年劣化によるトラブルが起こるリスクも高まります。
インプラントの寿命は10年前後と一般に言われます。ていねいにケアしていればそれを大きく上回る期間使えますが、可能性としてはセラミックやジルコニアの上部構造は10〜20年で破折・摩耗が起こり得ます。高齢期に修理や交換が必要になった場合、全身の状態や経済的理由で対応が難しくなるリスクがあります。
MRI・骨粗しょう症治療薬との干渉問題がある
MRI検査を受ける場合や一部の骨粗しょう症の治療薬を服用する場合、干渉問題が起こる可能性もあります。
MRI検査ではステンレスなど一部の素材で画像診断にノイズ(アーチファクト)が入ってしまいます。しかし基本的に歯科用のインプラントはチタン製なので問題にはなりません。そのため多くの場合は検査を受けられますが、検査の前に歯科医に確認する必要があります。
骨粗しょう症は高齢期に多い病気ですが、ビスフォスフォネート系薬剤などによる治療ではインプラント周囲の骨壊死(BRONJ/MRONJ)リスクが生じます。なおすべての骨粗しょう症の治療薬が問題となるわけではありません。
顎骨や歯ぐきの変化に対応しづらくなる
顎骨や歯ぐきの変化に対応しづらくなる点も問題だと言えます。
加齢に伴い顎骨や歯肉が変化しても、インプラントの位置は固定されているため変わりません。そのためズレが生じても噛み合わせの調整をしづらくなることがあります。
あるいは加齢で周囲の天然歯が抜けたり歯茎が下がったりすることで、インプラント体だけが突出することもあります。その際インプラントを除去しようとしても、骨と強固に結合していて大掛かりな手術になるリスクがあります。
介護状態になったときメンテナンスが難しい
さらに問題として挙げられるのは、介護状態になったときメンテナンスが難しくなる点です。
要介護・寝たきりになった場合、介護施設や実際に介護を行う職員にインプラントの存在そのものや適切なケアの方法が知らされていなかったり理解されていなかったりするケースがあります。そのような場合、誤ったケアやメンテナンスが行われたり逆にケアされず状態が悪化したりするリスクが高まります。
訪問歯科を利用する場合も、インプラントのメンテナンスは通常の義歯ケアより格段に難しいため専門的管理が届かなくなるリスクがあります。
「寝たきり」になったとき窒息・誤嚥リスクがある
さらに稀なケースではありますが、身体の健康状態が悪化して寝たきりになった場合にインプラントが窒息や誤嚥を引き起こすリスクもあります。
インプラントのネジの緩みや部品の脱落に気づかず、就寝中や食事中に誤って飲み込んだり、気管に入れたりするようなケースです。
高齢になったときのインプラントのメリット
これまで高齢者にとってのインプラントの問題点を説明してきましたが、インプラントには問題を上回るメリットがあります。ここでは高齢になったときのインプラントのメリットについて解説します。
関連記事:老後を見据えた60代のインプラント治療のメリットとデメリット
「嚙む力」の維持により、よい全身健康・栄養状態が保てる
まず、「嚙む力」の維持によってよい全身健康・栄養状態が保てるというメリットがあります。
インプラントは天然歯に近い噛む力を維持できるため、肉や繊維質の野菜もそれまで同様食べることができます。どんな食材でも、食べづらくなったり避けたくなったりすることがありません。
そのためいろいろな食材からバランスよく栄養を摂取し続けることができ、全身の健康を保ちやすくなります。全身のフレイル、サルコペニア、要介護状態への移行を遅らせる効果が期待できます。
顎骨の吸収を防ぐことにより見た目を維持できる
顎骨の吸収を防ぐことにより、見た目の老化を抑えてQOLを維持することができます。
インプラントは顎骨に直接刺激を与えることで骨吸収を抑制するため、入れ歯使用時に起こりやすい顔のたるみ・老け顔の進行を防ぐことができます。若々しい見た目が保たれることで、本人の社交性などに悪影響が生じることもなくQOLの維持も期待できます。
発音・会話能力が保たれ社会参加や認知症予防につながる
インプラントは発音・会話能力を保つことにも役立ち、社会参加や認知症予防につながります。
しっかり固定された歯があることで発音が安定し、話すことが面倒になったり不明瞭な発音で恥ずかしくなったりすることがありません。その結果会話・コミュニケーションが活発になり、コミュニケーションの質が向上します。社会的孤立を防ぎ、認知症リスク低減にも役立つ可能性があります。
認知症予防という面では、「しっかり噛める」ことが脳の血流を維持し、認知機能の低下を緩やかにする効果も期待できます。
入れ歯の不快感・痛みから解放される
総入れ歯・部分入れ歯で生じやすい「痛み・ズレ・外れる不安」がなく、不快感や痛みから解放されます。その結果、食事・外出・会話を自信を持って楽しめるでしょう。
取り外し式の入れ歯と異なり、インプラントは装着感が自然でストレスが少ないのが特徴です。そのため違和感を持ち続けて生活するようなこともなく、生活の質(QOL)が向上します。
残っている天然歯を保護できる
さらにインプラントは残っている天然歯を保護できるのもメリットです。周囲の歯から独立しているためです。
入れ歯のように隣の歯にバネをかけないため、健康な歯の寿命を延ばすことができます。ブリッジも自然な噛み心地などメリットのある治療法ですが、健康な歯を削る必要があります。インプラントなら歯を削る必要もありません。
誤嚥リスクを低減できる
インプラントは誤嚥リスクを低減するのにも役立ちます。
噛み合わせのよいインプラントでしっかり咀嚼して嚥下(「えんげ」:飲み込むこと)することで、嚥下機能を維持したり飲み込んだりする訓練になり、誤嚥のリスクを低減することができます。高齢者の誤嚥は誤嚥性肺炎の原因になるため、誤嚥リスクの低減は全身の健康維持にも役立ちます。
介護する人にとってのメリット
インプラントは、本人だけでなく家族や介護する人にとってもメリットがあります。ここでは、周りの人から見たメリットについて解説します。現在すでに介護が必要な方ならすぐに、現在は介護が不要の方も将来的に以下のメリットが得られます。
食事介助の負担が軽減される
まず1つめのメリットとして、食事介助の負担が軽減されることが挙げられます。
総入れ歯の高齢者では食べられるものが大幅に限られ、食事の準備や食事介助にかかる時間と手間が大きくなります。しかしインプラントがあればその負担が抑えられます。
インプラントで噛む力が保たれていると、介護食・刻み食・とろみ食など特別な食事を準備することが不要になったり最小限で済んだりします。家庭なら家族と同じメニューを長く楽しむことができ、大きな負担軽減になります。
さらに食事をスムーズに取れることで食事介助中の誤嚥・むせのリスクが下がり、介護者の精神的負担も軽減できます。
入れ歯の管理・紛失トラブルから解放される
とくに介護施設に入所している場合、入れ歯の管理・紛失トラブルから解放される点もメリットです。
介護現場では総入れ歯・部分入れ歯について、外れる、落として割れる、紛失する、施設のゴミと一緒に捨てられてしまう、他の人のものと取り違えるなどのトラブルが非常に多くあります。しかしインプラントは取り外しが不要なため、こうした入れ歯管理の煩雑さや紛失トラブルが根本的になくなります。
入れ歯のトラブルは食事が取れなくなることに直結するため、急いで対処しなくてはなりません。しかしインプラントなら緊急で歯科受診・作り直しをする手間と費用・時間的コストが不要です。そのため介護者の突発的な負担も減らすことができます。
誤嚥性肺炎の予防につながり、介護負担の重篤化を防ぐ
インプラントは誤嚥性肺炎の予防につながり、介護者にとっても負担の重篤化を防げるというメリットがあります。
インプラントで咀嚼する力が維持されていれば、嚥下の衰えを防ぎやすくなります。また口腔内が不衛生になると誤嚥性肺炎のリスクが高まりますが、適切なメンテナンスが行われていれば口の中が衛生的に保たれます。これら両面から、インプラントは誤嚥性肺炎のリスク低減につながると言えるでしょう。
肺炎による入院後はADL(日常生活動作能力)が著しく低下することが多く、その後の介護負担が大きくなってしまいます。そのため誤嚥の予防は効果が連鎖的に大きくなると言えるでしょう。誤嚥性肺炎への不安が軽減されるのは、見守る側にとって精神的にも大きなメリットです。
コミュニケーションが取りやすい
インプラントによってコミュニケーションが取りやすくなるのもメリットです。本人にとっても介護する側にとっても、さまざまなポジティブな結果をもたらします。
発音が安定することで会話がスムーズになり意思疎通がしやすくなるため、介護におけるストレス軽減にもつながります。また本人の自信や意欲が高まってより自立した生活を送れるようになり、結果的に介護負担を減らすことも可能です。
本人のQOL・情緒安定が介護関係を良好にする
本人のQOLが向上したり情緒が安定したりすることで、介護関係が良好になるのもメリットです。
インプラントは、噛む力や発音によい影響となり、見かけも若く保つのに役立ちます。食事・会話・外見に自信が持てると、精神的に安定しやすくなります。本人の情緒が安定していることは、介護者との関係性を良好に保ち、介護そのものを持続しやすくする効果があります。このようにインプラントは介護しやすい関係を作ることに有益です。
そもそもしっかり食べられる、話せるという満足感は、意欲や活力の維持につながります。その結果、自立した生活が送りやすくなり要介護度の進行を抑えられ、介護負担の軽減も期待できます。
また「食事をおいしく食べられている」という状態は、家族にとっても大きな安心感・介護のやりがいにつながるでしょう。
全身的な健康維持により、介護の重篤化・長期化を遅らせる
全身的な健康維持により、介護の重篤化・長期化を遅らせるというメリットもあります。
インプラントにより咀嚼機能が保たれると、低栄養・フレイル・サルコペニアの予防になって全身の筋力・免疫力・認知機能を保つのに有益です。フレイルや認知症の進行が遅くなれば、要介護度の重症化や介護施設への早期入所を先延ばしにできる可能性があります。
介護者にとって「在宅介護を続けられる期間が延びる」「施設入所のタイミングを自分たちで選べる」ことは、精神的・経済的・時間的な大きなメリットとなります。インプラントへの投資が、長期的には介護コスト全体の抑制につながるかもしれません。
高齢者のインプラントのリスクを低める方法
次に、高齢者のインプラントのリスクや問題を低める方法について解説します。本人ができることは本人が実践すればよいですが、場合によってはご家族や介護者の方が対応すべきこともあるでしょう。
では、順に解説していきます。
治療前の全身検査と主治医との連携を行う
まずインプラント治療を受ける前に、全身の検査と主治医との連携を行いましょう。すでに見たように、基礎疾患がインプラント治療に悪影響を及ぼすことがあるためです。
内科・整形外科など主治医と歯科医師に連携してもらい、服用薬を調整したりコントロール状況を確認したりしたうえで手術適応を判断することが求められます。
骨量が十分な間に早めに治療を受ける
また骨量が十分な間に早めに治療を受けることも治療時の問題防止に役立ちます。骨密度が保たれている間に治療を完了しておくことで、骨結合不全や術後トラブルのリスクを大幅に下げることが可能になるためです。
目安としては60代前半までに済ませるとよいでしょう。費用や時間の節約にもつながることが期待できます。
インプラント専門医・経験豊富な歯科医師で治療を受ける
当然のことではありますが、信頼できる歯科医で治療を受けることも大切です。インプラント専門医や経験豊富な歯科医師を選びましょう。
専門的な知見が豊富な歯科医なら高齢者特有のリスクを管理する方法にも精通しており、手術計画・リスク対応の精度が上がります。またコミュニケーションの取りやすさなど知見以外の面も重要です。評判を調べたり、治療を受ける前に相談したりして決めましょう。
定期的な通院ケアと徹底したセルフケアを欠かさない
インプラントを安全に長く利用するためには、挿入後は確実な口腔ケアが求められます。定期的な通院ケアと徹底したセルフケアを欠かさないようにしましょう。
通院の間隔は、一般に3〜6ヶ月程度です。通院して歯科定期検診・PMTC(プロフェッショナルクリーニング)を継続し、インプラント周囲炎を早期発見・予防することが大切です。セルフケアには限界があるため、定期メンテナンスは「義務」として習慣化しましょう。
ただしセルフケアが不要とか無意味だということではありません。日常的にはていねいなブラッシングやフロス・歯間ブラシを使って歯とインプラントの間の食べかす除去をしっかり行うことが必要です。
将来の介護状態を見越した治療計画と介護者への情報共有を行う
将来の介護状態を見越して、治療計画と介護者への情報共有を行うことも重要です。
内科医との連携を含め、全身疾患のコントロール状況を把握したうえで治療計画を立てることが重要です。またインプラントの本数・位置・上部構造の種類を記録し、家族や介護担当者・かかりつけ医の間で情報を共有しておきましょう。
そのほか訪問歯科でのメンテナンス継続が可能な環境を事前に整えておくと安心です。
インプラントをメンテナンスしやすい設計にする
将来の介護を見据え、清掃しやすい上部構造やシンプルな設計を選ぶことが重要です。上部構造を簡単に外して「ただの柱」として眠らせることができる設計にしておくと、将来的に管理不能になった際にもリスクを低減することができます。
さらにインプラントだけでなく、取り外し可能な義歯との併用(オーバーデンチャーなど)も検討し長期的な視点で判断すると、将来に向けた安心度も高まります。
高齢者のインプラントで家族や介護者が注意すべき点
高齢者のインプラントについて考える場合、家族や介護者も注意しなくてはならない点があります。本人の意思や状態を尊重するべきなのは当然ではありますが、周囲も無縁ではいられないためです。ここでは、家族や介護者が注意すべき点についてまとめます。
インプラントについて情報共有する
インプラントをしているという状況、適切なケアの方法、注意点などについて家族、介護施設、介護の担当者の間で情報共有することが重要です。本人が心身の健康状態低下で説明できなくなる前に、家族が主導して情報整理をしておく必要があります。
インプラントの本数・位置、上部構造の種類を記録した「口腔情報カード」を作成し、介護施設入所時には、ケアマネージャー・施設スタッフ・訪問看護師などと共有しておきましょう。
介護施設や病院のスタッフはふつう歯の専門知識がないため、見た目でインプラントと天然歯を区別することはできません。特別な清掃器具(専用ブラシ等)が必要な場合や、強い力でこすってはいけない部位があることは家族の責任で伝えましょう。
さらに救急搬送や入院の際、インプラントがあることを医療スタッフに伝えないと、気管挿管・全身麻酔時のリスク管理が不十分になる可能性があります。
骨粗しょう症治療薬との関係を把握・管理する
家族や介護者も、すでに解説したような骨粗しょう症治療薬との関係を把握・管理しなくてはなりません。高齢者が受けていることの多い骨粗しょう症の治療では、ビスフォスフォネート系薬剤やデノスマブによりインプラント周囲の顎骨壊死リスクが高まります。
本人の認知機能が低下している場合、これらの薬が処方された際にインプラントが入っていることを本人が処方医に伝えるのは難しいことです。介護者・家族が代わりに伝える必要があります。インプラント情報に加えて、お薬手帳・診察券を一元管理するファイルを介護者が作成・携帯しておくと、複数科受診時に役立ちます。
インプラントに悪影響だからと言っても、骨粗しょう症の治療薬を勝手に中断することも危険です。そのため、歯科医師・内科医・整形外科医の三者で方針を決めなくてはなりません。
認知症進行に伴うケア拒否・口腔ケア困難に備える
リスク対策として、認知症が進行した場合に拒否・口腔ケアが困難になることに備えておきましょう。歯科医師・言語聴覚士・認知症ケア専門士などの専門家と連携し、口腔ケアを受け入れやすい環境・手順・タイミングを工夫する必要があります。
認知症が進むと、口腔ケアを嫌がって口を開けない/噛みつくようになることがあります。通常の義歯なら取り外してケアできますが、インプラントは取り外せません。そのため口腔内のケアができず、状態が悪化するリスクを理解していても放置せざるを得ない状況になることもあります。
将来的にケアが難しくなった場合、インプラントの上部構造を取り外して衛生状態の悪化リスクを低減する選択肢もあります。どのような手段を取るか、早期に歯科医師と相談しておきましょう。
通院サポートが必要となる
また介護する側の覚悟として、通院サポートが必要となる点も理解しておきましょう。
インプラントは定期的なメンテナンスが不可欠です。本人が自力で通院できなくなった場合、送迎や付き添いなど介護者の負担が増えます。
訪問歯科という選択肢もありますが、インプラントに対応している医師が見つかるかどうかなど、必ずしもスムーズに解決するとは限りません。送迎や付き添いによる通院が基本と考えておきましょう。
インプラント周囲炎の早期発見が重要になる
インプラント周囲炎の早期発見が重要になる点も認識しておくことが大切です。インプラント周囲炎が進行してしまうと、口内・全身の健康状態が悪化するだけでなく金銭的・時間的な負担も大きくなります。認知や感覚の低下で本人が気づきにくくなったようなケースでは、家族や介護者が状態をチェックする必要があります。
歯ぐきの腫れ、出血・口臭・膿などはインプラント周囲炎のサインです。日常的な観察と異変への早期対応が求められます。介護者がインプラント周囲炎のサインを見分けられるようになっておくことが望ましいと言えます。
セルフケアの限界サインを決めておく
セルフケアの確実さに問題が生じてきたとき、その限界となるサインを決めておくことも不可欠です。
年齢を重ねるに伴って認知機能や手指のコントロールの確かさが落ちてくると、どうしてもケアが不十分になります。家族が口臭の変化や歯茎の腫れにいち早く気づき、プロの清掃へ切り替えるタイミングを見極める必要があります。
備えとして、どうなったらセルフケアをあきらめるかのサインをあらかじめ決めておくと、判断に迷わずに済みます。要介護状態になった場合の対応方針を、かかりつけ歯科医師に事前に相談・確認しておくことが理想的です。
訪問歯科診療とのつながりを確保しておく
訪問歯科診療とのつながりを確保しておくことはリスクヘッジになります。通院が困難になったときに備えて、インプラントのメンテナンスに対応できる「訪問歯科」が地域にあるか事前にリサーチしておきましょう。
すでに述べたように、すべての訪問歯科がインプラントのトラブルに対応できるわけではありません。対応できる訪問歯科は限られているのが現状です。それがゆえに、対応できる訪問歯科とのつながりができていると大きな安心になります。
高齢者向け|入れ歯・ブリッジとの比較
次に、高齢者の方向けにインプラントとインプラント以外の治療方法を比較してみましょう。失った歯を補う方法としては、インプラントのほかに入れ歯とブリッジが広く活用されています。ここでは入れ歯とブリッジの2つの方法とインプラントを比較します。
入れ歯との比較
初めに、入れ歯とインプラントを比較してみましょう。入れ歯は広く知られている方法ではありますが、インプラントとの具体的な違いなど意外に知られていないのではないでしょうか。順に見ていきましょう。
入れ歯とは
入れ歯とは、歯を失った部分に取り外し式の人工の歯を装着する治療法です。部分入れ歯(一部の歯)と総入れ歯(すべての歯)の2つに大きく分けられます。歯を失った部分の型を取り、プラスチックや金属の土台に人工歯をつけた装置を装着します。
比較的手軽な方法でもあり、高齢者や全身疾患のある方でも受けやすい治療法として広く普及しています。
入れ歯ならではのメリット
入れ歯のメリットは、いろいろな面で負担が少なく手軽だということです。
外科手術が不要なため、体への負担が少なくて済みます。そのため、高齢者や基礎疾患のある方や重度の持病がある方でも受けやすい方法です。
入れ歯は費用面でも負担が少ない方法です。内容によっては保険が適用されるため、費用を大幅に節約できます。また万が一の故障・紛失時も修理や再作製が比較的安価に行えます。費用だけでなく手間についても、修理・作り直しが比較的容易です。
さらに取り外せる点もさまざまなメリットを生みます。丸洗いできるため、介護が必要な状態になっても介助者が清潔さを保ちやすくなります。また就寝中にも取り外しておけば部品脱落による誤嚥リスクがありません。
入れ歯とインプラントの比較
インプラントと比較した場合、使用感や長期的な健康維持の面では入れ歯は大きく劣ります。
まず噛む力や噛み心地です。インプラントは顎骨に直接固定されるため、天然歯に近い強い力で硬いものも噛むことができます。しかし入れ歯は歯茎で支えるため、天然歯の30%〜40%程度の力しか入りません。インプラントなら食事の制限がほぼありません。
また装着感にも差があります。インプラントは骨に固定されるため、入れ歯のようなガタつき、ズレ・外れ・痛みなどの不快感がありません。取り外し不要で、食事・会話・外出時の安心感が高いと言えます。
さらに、インプラントは噛む刺激が直接骨に伝わるため、入れ歯の欠点である「顎の骨が痩せていく現象」もなく、長期的に見た目を若く保つことができます。また入れ歯のように隣の歯にバネをかけることがないため、残っている天然歯への負担がなく天然歯の寿命を守ることが可能です。
介護が必要になってもインプラントは紛失・破損トラブルがなく、介護者の突発的な負担が生じにくい点もメリットです。
このように、インプラントは食事の満足度や栄養状態の改善、会話など社会性や見た目の老化防止にも役立ち、生活の活力につながります。その結果、長い目で見たときのQOLに役立つのもすでに見た通りです。
ブリッジとの比較
続いてブリッジと比較してみましょう。ブリッジも高齢者にとってメリットの多い治療法の選択肢となります。
ブリッジとは
ブリッジとは、失った歯の両隣の歯を削って支えにし、連結した人工歯を固定する治療法です。取り外し不要で装着感が自然に近く、自分の歯に近い感覚で食事ができます。インプラントが普及する以前から広く行われてきた方法です。
ブリッジならではのメリット
ブリッジは、自然歯に近い感覚が得られつつ負担が少ない点が特徴です。
まず外科手術が不要なため、体への負担が少なくて済みます。全身状態に不安がある場合でも選択しやすいでしょう。手術への恐怖心が強い方や骨量が不足している方にも適しています。
固定式のため、入れ歯のようなズレ・外れの不快感がなく、装着感が比較的安定しているのもメリットです。入れ歯に抵抗がある人にとって現実的な選択肢となります。
またインプラントのように骨との結合を待つ必要がありません。外科手術が不要なことと合わせて治療期間も短くて済み、通常数週間で完了するスピード感がメリットです。
費用面でもメリットがあります。保険適用の素材を選べば費用を大幅に抑えることができます。費用を大幅に抑えつつ固定式の歯を取り戻すことができます。
治療の実績・歴史が長く、多くの歯科医師が対応できるのも安心できる点です。
ブリッジとインプラントの比較
どちらも自然な歯に近い噛む力を保てるなど共通する強みもありますが、インプラントは「周囲の健康な歯を守る力」が決定的に違います。
ブリッジは支柱となる両隣の歯を大きく削る必要があります。さらに本来3本の歯で支えるべき力を2本で負担するため、支柱の歯の寿命を縮めるリスクがあります。対してインプラントは健康な天然歯を削る必要がなく、周囲の歯を一切傷つけません。そのため残っている歯をそのまま温存できます。ブリッジの削った歯は長期的に歯根破折や虫歯のリスクが高まるため、この差は大きいと言えるでしょう。
また、インプラントは顎骨に直接固定されることで骨の吸収を抑える効果も期待でき、安定した噛み心地を維持しやすい点も優れています。また骨に直接固定することで、見た目の変化も抑制できます。
さらにインプラントは1本ずつ独立しているため、1本にトラブルが起きても隣の歯への影響が少なく、部分的な対処が可能です。将来さらに歯を失った場合も、インプラントを軸に柔軟に治療計画を拡張しやすいと言えるでしょう。
高齢者のインプラントの問題についてよくある質問
高齢者のインプラントの問題について、よくある質問と回答をまとめました。
Q. 高齢者がインプラント治療を受ける際、骨に関してどのようなリスクがありますか?
A. 加齢や女性の閉経、長期間の欠損放置などにより、顎骨の骨量・骨質が低下します。骨密度が不十分な状態でインプラントを埋入すると、インプラントと骨がうまく結合しない「骨結合不全」が起こりやすくなります。骨造成が必要になれば、治療期間の延長や費用増加など、時間的・金銭的負担も大きくなります。
Q. 介護状態になった場合、インプラントにはどのような問題が生じますか?
A. 要介護・寝たきりになると、定期的なメンテナンスや専門的な口腔ケアが難しくなります。介護施設のスタッフがインプラントの存在や適切なケア方法を知らないケースもあります。また上部構造の脱落に気づかず誤嚥・窒息するリスクも生じます。訪問歯科でも、インプラントに対応できる医師は限られているのが現状です。
Q. 高齢者のインプラントリスクを下げるために、家族や介護者がすべきことは何ですか?
A. まず、インプラントの本数・位置・上部構造の種類を記録した「口腔情報カード」を作成し、ケアマネージャーや施設スタッフと情報共有することが重要です。骨粗しょう症治療薬との干渉リスクを把握し、複数科受診時には必ず医師に伝えましょう。また歯ぐきの腫れ・出血・口臭などインプラント周囲炎のサインを見分けられるようになっておくことも大切です。
Q. インプラントは介護する家族にとってメリットがありますか?
A. はい、介護する側にも大きなメリットがあります。噛む力が維持されることで特別な介護食の準備が不要になり、食事介助の負担が軽減されます。また入れ歯のような紛失・破損トラブルがなく、突発的な対応に追われることもありません。さらに誤嚥性肺炎のリスク低減につながり、介護が重篤化・長期化するリスクを抑えられます。
Q. インプラントは高齢者の認知症予防や社会参加にも効果がありますか?
A. 期待できます。インプラントでしっかり噛めることは脳への血流維持につながり、認知機能の低下を緩やかにする効果が期待されています。また発音が安定することで会話・コミュニケーションが活発になり、社会的孤立を防ぐことにもつながります。「食べる・話す・笑う」という日常の質を守ることが、認知症予防への近道とも言えます。
ご高齢の方のインプラントのご相談は高田歯科クリニックへ
インプラントはご高齢の方にとってもメリットが多い治療法ですが、事前の確認や安心して依頼できる歯科医選びが重要になります。実績や知識の豊富な歯科医を見つけることができれば、さまざまなアドバイスが受けられて高い納得度や安心感をもって治療に進めるでしょう。
高田歯科クリニック(東京都杉並区)では、患者様の口腔内に合わせた治療計画を立て、お一人お一人に合わせたご提案、治療を行っております。もちろんご高齢の方の治療に対応しており、その知見もあります。ご高齢の方のインプラントをご検討中なら、お気軽にご相談ください。
インプラント治療について気になることや不安なことがございましたら、お気軽に当院へご相談ください。
カテゴリー:インプラント&歯科ブログ 投稿日:2026年4月17日








