上顎(上の歯)のインプラント治療が難しい理由!「上顎洞炎」の危険性も?
上顎のインプラント治療は、“下顎の治療に比べて難しい”、“危険だ”と言われることがあります。
治療が難しいとされる主な原因は、上顎ならではの特徴が関係していたり、上顎洞に炎症が起こる「上顎洞炎(じょうがくどうえん)」が引き起こされたりする可能性があるためです。
本記事では、上の歯のインプラント治療が難しいといわれる具体的な理由や、上顎などの骨が少ない場合に必要なインプラント手術・骨造成方法、インプラントによって起こり得る「上顎洞炎」について解説していきます。
上顎のインプラント治療が難しい理由
- 上顎は骨の密度や量が少ないから
- 上顎の骨が柔らかいから
- インプラント治療によって上顎洞炎の危険があるから
上顎のインプラント治療の危険性も知ったうえで、インプラント治療を検討しましょう。ぜひ最後までご覧になり、参考にしてみてください。
上顎(上の歯)のインプラント治療が難しいと言われる理由
上顎のインプラント治療が難しいとされるのには、「骨」が関係しています。
インプラント治療は、インプラント体と呼ばれる人工歯根を「骨」に埋入する治療法です。インプラント体をしっかり固定するための土台の骨が必要となります。つまり、固定できるだけの骨の量がなければ、治療自体が難しいのです。
より具体的には、以下の理由が挙げられます。
上顎は骨の密度や量が少ないから
個人差はあるものの、一般的に上顎は下顎に比べて、骨の密度が低い傾向にあります。骨密度が低いと、顎の骨に埋入した人工歯根の結合に時間がかかります。目安として、下顎が【2~3ヶ月程度】であるのに対し、上顎は【3~9ヶ月程度】を要します。
また、上顎は骨の密度だけでなく、骨の量も少ないという特徴があります。骨量が少ないとインプラントを埋入する際に安定性を得られません。
もし骨量が少ない状態で手術を行い、インプラントがしっかりと固定できなかった場合、インプラントのグラつきや抜け落ちなどの問題が生じてしまいます。
上顎の骨が柔らかいから
顎の骨は、硬い「皮質骨」と、スポンジ状の「海綿骨」で構成されています。上顎は、下顎よりも柔らかい「海綿骨」の比率が高いという特徴があります。
したがって、人工歯根を埋入するための「硬さ」や「安定感」がやや不足してしまうのです。
上顎の「前歯」や「奥歯」は特にインプラント治療が難しい
上顎の中でも、「前歯」や「奥歯」は特にインプラント治療が難しいケースとなります。
前歯については、前歯の上に鼻腔と口腔を接続する切歯管があるからです。この中には神経や血管などが通っているため、切歯管内の組織を傷つけないよう注意しなければならず難易度が上がります。
また、前歯を支える顎の骨は奥歯よりも薄く、痩せやすいという特徴もあります。前述した通り、顎の骨が少ないとインプラント体の安定性が不足するとともに、難易度が高くなってしまうのです。
さらに、上顎奥歯の上には上顎洞という空洞があります。この上顎洞があることで、前歯よりもさらに上の奥歯は骨が薄くなりやすいのも事実です。
一般的に用いられるインプラント体の長さは10mm前後ですが、これよりも顎の骨が薄い場合は、インプラント体が上顎洞を突き抜けてしまいます。この状態でインプラント周囲炎を起こすと上顎洞炎の原因になるため注意が必要です。
インプラントはできない?上顎の骨が少なくなる(薄くなる)主な原因
上顎の骨が少なくなる原因には、以下の4つが挙げられます。
- 歯周病で顎の骨が溶けたから
- 歯のない状態を長期間放置していたから
- 入れ歯などにより骨が痩せたから
- 腫瘍などで顎の骨の一部を失ったから
1つずつみていきましょう。
歯周病で顎の骨が溶けたから
歯周病は、細菌の感染によって起こる炎症性疾患です。歯周病が進行すると、歯周ポケットの炎症が進行し、歯を支えている骨が溶けてしまいます。
悪化すればするほど、結果として骨が薄くなってしまうのです。
歯のない状態を長期間放置していたから
上顎の骨が少なくなる原因の一つに、長期間にわたる「歯のない状態の放置」が挙げられます。歯のない状態を放置していると、その部分の顎骨はどんどん痩せ細ってしまうのです。
通常、歯は咀嚼(噛む動作)を通じて骨へ刺激を与え、骨の形成を促します。しかし、歯が失われると咀嚼による骨への刺激がなくなり、次第に骨量が減少してしまいます。
入れ歯などにより骨が痩せたから
長期間の入れ歯の使用も上顎の骨が少なくなる原因のひとつです。入れ歯は、極端に言うと歯茎の上に歯を乗せているだけの状態。顎の骨に適度な刺激が行き渡らないため、骨吸収(骨が溶ける)が起こりやすく、結果として骨の量が少なくなるのです。
入れ歯と同じようにブリッジ治療でも同じく、骨吸収が起こりやすいとされています。
腫瘍などで顎の骨の一部を失ったから
上顎の骨が少なくなる原因の一つとして、腫瘍があります。特に、口腔内や顎の近くにできた腫瘍は、進行に伴い周囲の組織や骨を侵食してしまう恐れがあるのです。
特に腫瘍の摘出が必要な場合には、骨の一部を切除しなければならないケースもあるでしょう。その結果、上顎の骨量が減少してしまいます。
また、ガンの種類によっては骨がもろくなることや骨密度が低下することもあり、より治療の困難さを招きます。
骨が少ない場合に必要なインプラント手術・骨造成方法
ここまで説明してきた通り、上顎のインプラント治療では骨が問題になりがちですが、上顎の骨が少ない場合でも、骨を増やす治療を行うことでインプラント治療が行える場合もあります。具体的に用いられる方法は以下の3つです。
- サイナスリフト
- ソケットリフト
- GBR法(骨誘導再生法)
1つずつ詳しくみていきます。
サイナスリフト
骨を増やす治療としてまず挙げられるのが、「サイナスリフト」です。サイナスとは上顎洞のこと。
骨の厚みが8mm未満の場合など、多くの骨を補わなくてはいけない場合にこの方法が選択されるケースが多いでしょう。具体的には、歯茎を切開して上顎洞を露出させ、直接持ち上げて骨補填剤(骨を形成するための素材)を入れて骨を作る方法です。
骨補填剤は時間の経過によって、今ある骨と一体化していきます。これによって、インプラント治療を行うために必要な骨の量と厚さを得ることができるのです。
サイナスリフトのメリット
サイナスリフトのメリットは次の通りです。
- 骨が薄くインプラント治療が難しいケースでもインプラントが可能
- 上顎奥歯の広い範囲にも骨を再生できる
- 歯茎の側面を切開し、目で確認しながら行うため安全性が高い
サイナスリフトのデメリット
サイナスリフトのデメリットは次の通りです。
- 歯茎の側面に穴を開けて骨補填材を入れていくため、傷口が大きくなる
- 回復に時間がかかる
- 術後に術部が腫れることがある
- 歯の状態や手術の方法によって治療期間が長くなる(=歯のない期間が長い)
なお、サイナスリフトとインプラント体の埋入を同日に行うのが一般的ですが、骨の状態によっては別日にそれぞれの手術を行うこともあります。その場合、サイナスリフトで補った作った人工骨がなじむまで約3~6ヶ月程度待ってから、インプラント体を埋め込む手術となります。
ソケットリフト
「ソケットリフト(上顎洞挙上術)」は、サイナスリフトと同じく骨補鎮材を入れて骨を再生する治療です。ソケットリフトは増やす骨量が比較的少ない場合、部分的に骨を再生したい場合に行われることが多く、骨の厚みが8mm以上ある場合などに適用されます。
骨補填剤を注入したのち、人工歯は約4~5ヶ月後、骨が作られてから装着するのが基本的な流れです。
ソケットリフトのメリット
ソケットリフトのメリットは次の通りです。
- 外科手術の範囲が少ないため、傷口が小さい
- 傷の回復が早い
ソケットリフトのデメリット
ソケットリフトのデメリットは次の通りです。
- 小さな穴を開けて行うため治療部分が見えにくい
- 上顎洞の境目の粘膜を破いてしまう危険あり
GBR法(骨誘導再生法)
「GBR法(骨誘導再生法)」は、骨が不足している部分に骨補填材や自家骨を詰めて骨を造成し、インプラントを埋入するのに適した骨の量と密度を得る方法です。
骨を作りだす細胞が増殖し、骨の再生が促進されます。個人差は大きいものの、約3~4ヶ月でインプラントの安定性が生まれます。
GBR法のメリット
GBR法のメリットは次の通りです。
- インプラント体を埋入した後に骨を増やすことができる
- インプラント体の安定性が高い
GBR法のデメリット
GBR法のデメリットは次の通りです。
- 自家骨を使う場合、「骨採取」と「インプラントの埋入」の2回の手術が必要
- 治療期間が長い
- 喫煙者や糖尿病患者は自家骨が採取しづらく不向き
上顎のインプラントは危険?起こり得る危険性「上顎洞炎」とは
「上顎洞炎(じょうがくどうえん)」とは、鼻の奥あたりにある骨の空洞部分で起きる炎症のことを言います。空洞内部はシュナイダー膜と呼ばれる粘膜で覆われていますが、この粘膜に細菌が入り込むと上顎洞炎と呼ばれる炎症が起こるのです。
上顎洞炎は、そのまま放置すると眼窩炎や髄膜炎、脳膜炎へと発展しかねない恐ろしい病気とされています。
また、鼻の炎症や歯が原因で引き起こされるほか、インプラントが原因となることもあります。ここからは、上顎洞炎のタイプ別の原因や症状をみていきましょう。
鼻性上顎洞炎の原因と症状
「鼻性上顎洞炎」は、風邪やインフルエンザなどのウィルス感染や細菌感染、そしてアレルギー性鼻炎が原因の場合が多いとされています。主な症状は次の通りです。
- 鼻水・鼻づまり
- 鼻水の変色
- 鼻の奥の違和感
- 目のだるさ・重さ
- 頭痛
鼻性上顎洞炎の症状は上記のように、鼻や目などに現れるのが特徴です。
歯性上顎洞炎の原因と症状
「歯性上顎洞炎」は、むし歯や歯周病が原因の上顎洞炎のことです。むし歯が進行していくと歯の神経が腐り、歯根の先に膿をためるようになります。
一方、歯周病の場合は、歯と歯茎の隙間の部分から歯周病菌が入り込み、少しずつ歯を支えている骨を溶かし、膿が蓄積されます。
骨が薄い上顎の奥歯には、その上方に上顎洞があります。元々骨が薄い状態のところに、むし歯や歯周病で出てきた膿が蓄積されると、骨の厚みがさらに薄くなります。その結果、むし歯や歯周病の炎症が上顎洞に達しやすくなり、上顎洞炎を引き起こしてしまうのです。
そのほか、場合によっては歯そのものが上顎洞内に入り込んでしてしまうことでも生じます。主な症状は次の通りです。
- 歯の痛み
- 歯の違和感
- 歯茎の腫れ・痛み
- 頬の痛み
鼻性上顎洞炎の症状に加えて、歯性の炎症では歯や歯茎の症状が特徴です。
インプラントが原因の上顎洞炎について
インプラント治療が原因で上顎洞炎を起こしてしまう可能性も否めません。インプラント手術で粘膜が傷つき、そこから侵入した細菌によって炎症が引き起こされたり、上顎洞内にインプラントが突き抜けてしまったりすると上顎洞炎を起こします。
ただし、上顎洞炎を引き起こす歯科治療はインプラントだけではありません。上顎の奥歯の抜歯や根管治療(神経の治療)などでも、上顎洞炎が乗じる危険性はゼロではないのです。
上顎洞炎の主な3つの治療法
上顎洞炎による炎症を放置する症状は悪化していくばかりです。そのため、適切な治療が必要ですが、上顎洞炎では主に次の3つの治療法が採用されています。
治療法を知り、できる限り早めに治療を始めましょう。
- 薬物治療
- 歯科治療
- 上顎洞根治手術
薬物治療
上顎洞炎の1つ目の治療法は「薬物治療」です。炎症を抑えるために「マクロライド系」、「β-ラクタム系」、「キノロン系」などの抗菌薬を用いて、炎症の緩和をはかります。
慢性化した上顎洞炎の場合、マクロライド系抗菌薬を長期間投与することもあります。なお、抗菌薬による薬物治療は、次に紹介する歯科治療や上顎洞根治手術と併用されるのが一般的です。
歯科治療
むし歯や歯周病が原因の歯性上顎洞炎の場合、薬物治療とともに歯科治療が行われます。歯の神経の治療・切除で改善できるケースもありますが、原因となっている歯は抜歯となることがほとんどです。
もし、上顎洞内に歯根や歯、インプラントが入り込んだことが原因であれば、これらの異物を取り除く治療が求められます。
上顎洞根治手術
上顎洞根治手術とは、外科手術によって上顎洞炎を治す方法です。上顎洞根治手術は大きく分けて以下の2種類があります。
コールドウェルーラック法
上顎の犬歯の上方の歯肉を切開し、その部分の骨に穴を開けます。そこから、腫れた上顎洞粘膜を取り除く方法です。
デンカー法
鼻の底の部分に近いところまで広い範囲で骨を削る手術法です。
上顎(上の歯)のインプラント治療は信頼できる歯科医院で!
上顎のインプラント治療は、骨が少ないなどの理由から難しい治療だと言われていますが、最近では骨再生治療を行うことで、可能なケースも増えてきています。骨が少ないからとインプラント治療を諦めなくていいのです!
とはいえリスクが存在するため、上の歯のインプラント治療は実績豊富で信頼できる歯科医院で受けることが大切です。
杉並区荻窪にある当院「高田歯科クリニック」は、インプラントのリスクもしっかりとお伝えしつつ、患者様に負担の少ない施術とこれから先のお口の健康を維持できる施術を心がけています。
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カテゴリー:インプラント&歯科ブログ 投稿日:2024年4月10日